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書籍 「いのちをつなぐ無料低額診療事業」 書評紹介
書籍「いのちをつなぐ無料低額診療事業」に対し、多くの書評を頂いています。
以下、主なものを紹介させて頂きます。
NO.3 いのちとくらし 研究所報 No.58 (2017/3/31)
 全日本民主医療機関連合会(民医連)は、2006年以来「経済的事由による手遅れ死亡事例調査」を毎年行っている。加盟する全国600以上の病院・診療所を対象にし、2010年以降は毎年60例前後が集約されている。全国の医療機関に占める民医連のシェアはせいぜい1~2%であり、単純推計すれば経済的要因から治療が遅れて亡くなっている人は全国で3千人以上ということになる。民医連でも100%集約されているわけでないことを勘案すれば、2016年度の交通事故死者数3,904人を越えると思われる。ちなみに、交通事故死では高齢者が55%を占めている(2016年)のに対し、直近2年の同調査では、高齢者は4割合にとどまり、稼働年齢層の方が多い結果となっている。貧困の広がりに対し、国民皆保険制度が空洞化し、医療保障としての機能が失われてきているのである。
 「フリーアクセス」や「皆保険」が名ばかりとなり、実質的に機能しなくなっている現実、その悲惨な実態の一端をこの調査は示している。
 当研究所も昨年6月に社会的弱者や低所得者の医療保障問題をテーマに定期総会記念シンポジウムを開催した。そこでは、受診時に支払わなければならない医療費一部負担金の存在が、日本において受診抑制の大きな原因となっていることが指摘された。また、民医連が取り組んでいる無料低額診療事業の実際も知ることが出来た(※)。
 さて本書は、上記の無料低額診療事業について、その実態と機能、社会的意義を広く知ってもらうことを通じ、この事業の拡大と社会保障制度としての整備充実を訴えたものである。無料低額診療事業とは、社会福祉法の規定にもとづき医療機関が一部負担金を減額あるいは免除できる(医療機関の持ち出しで)制度のことである。健康相談の実施やソーシャルワーカーの配置などの要件を満たし、自治体に届け出が受理される必要がある。編著者は、吉永純氏(花園大学福祉学部教授)と公益社団法人京都保健会である。京都保健会は、京都民医連の最大法人であり、傘下の3病院・14診療所がこの事業を実施し、一部負担金の減免者数、減免金額とも全国最高である。したがって、この事業について社会へ発信するのに最もふさわしい人たちである。
 本書では、第1部を「無料低額診療事業がつなぐ医療」とし、章ごとに4つの事例が紹介されている。いずれも興味深い事例であり、大変にわかり易くまとめられている。例えば第3章は、厚生年金を11万円受給しながらもネットカフェを泊まり歩いているという70代のホームレスの事例である。もともと肺気腫で入院した経験もあり、国民健康保険料も納入しており、多少の通院治療費はなんとかなるだろうと思っていた。しかし、息が苦しくなり、無料低額診療事業の紹介チラシに載っていた診療所にかけつけた。肺気腫は酸素吸入が必要なほど悪化し、心不全も発症、ただちに無料低額診療事業を適用し入院となった。その後、病院のソーシャルワーカーの支援を受けて、介護保険、在宅酸素療法、身体障害者認定、生活保護受給へとつながった例である。チラシは、ホームレス支援ボランティアから2年前にもらい、いざという時のために大事にとっていたものだ。第5章は各事例をめぐるソーシャルワーカー等保健会職員と編著者の吉永純教授の座談会だが、各事例の教訓と課題がわかり易く整理されている。無料低額診療事業が、受診困難者の医療への入り口となることはもとより、さらに利用者に対してソーシャルワークが行われ、介護保険・障害認定・生活保護などの利用に適切に結びつけられ、必要な社会保障制度への架け橋となっていることの意義が強調されている。
 第2部は吉永氏による「現代の貧困と無料低額診療事業の果たす役割」である。この事業が医療保障の網から漏れた人たちの最終的な救済手段になり得ること、かつソーシャルワーク付きであることの特徴を強調するとともに、しかし実施医療機関が全国で600にも満たず全医療機関の0.3%と極めて少ないことを問題視している。そして、実施医療機関の拡大、保険薬局への適用、自主事業から法定事業化等と、国民健康保険の抜本改善(誰も排除しない制度)等によって遺漏なく低所得者への医療が保障される制度への発展を提起している。第3部は制度の変遷と京都保健会の取り組みの歴史がまとめられている。とりわけ注目されるのは、京都保健会の無料低額診療事業を実施している規模が、他の実施法人と比べて格段に大きいことである。民医連の法人で頑張っているところでも総患者数に占める医療費減免対象者数の比率は2%台だが、京都保健会で10%に及んでいる(減免額は1億4千万円を越える)。それは、減免対象の収入基準を生保基準額の200%(2015年度からは190%)と大きく広げているためである(民医連では150%以下の法人が多い)。巻末には、厚労省関係通知などの資料が添付されている。
 医療福祉関係者をはじめ一般の方にも広く読んでほしい本である。

※このシンポジウムの内容は、『いのちとくらし研究所報』第56号に掲載してあるので興味ある方はぜひ参照していただきたい。
今井晃 研究所専務理事、全日本民医連事務局次長、東京民医連事務局長
NO.2 民医連医療 No.521(2016年1月号)
「無料低額診療事業(無低診)はどうすれば始められるのですか?」。2014年11月、「朝日新聞」1面に無低診の記事が載った次の日、全国の医療機関から民医連に問いあわせが相次ぎました。日本の医療制度の谷間にある"助けたい命"がいかに各地に取り残されているのかを痛感させられる出来事でした。
 無低診をしている事業所は全国わずか0.3パーセント、そのうち62パーセントを民医連が占めています。本書はその中でも"老舗"と呼ばれる京都保健会の編著です。第1章は、無低診で助かった事例の紹介と座談会。第2章は、貧困大国・日本の現状と、無低診の利用者の実態をデータで示しています。第3章は、無低診の実務の整備事項などが書かれていて、医療機関側の参考になるものです。
 本書によると、低所得でまじめにがんばっている人ほど「生活保護を受けると向上心がなくなり、だらけてしまう。だから自分でなんとかする」という偏見やスティグマ(恥辱感)が根強いそうです。また、無低診のポスターを見ても「うちは裕福ではないが、この制度はもっと困っている人が使うもの」と思い込んでいた方もいたそうです。SWのみなさんは、無低診を医療者側からすすめる難しさ(失礼と受けとめられかねない、世帯収入を聞かねばならない)に悩みながら患者とコミュニケーションをとっている。「どこにいてもあなたをサポートしますよ」という姿勢で、緑を切らさない。その姿勢に脱帽しました。
 悩ましいのは、本書でも無低診について「あくまできっかけ。いかに次の社会保障につなぐか」と述べる一方で、「生活保護に至れない方の"最終的な"医療保障の手段」としていること。"谷間の患者"はこの2つの間を行き来するしかないのか? しかしそこは民医連。座談会での怖U度をつくる運動も民医連の仕事」という言葉に感動しました。三浦次郎理事長の「まえがき」、高梨輝子専務理事の「あとがき」にも「いのちの平等」をつらぬくトップ幹部の心意気が表れています。
NO.1 京都民報 (2015/12/20)
 現在安倍政権が進めている社会保障改革は、自助、互助を前面に押し出し、社会保障を共助として位置づけ、公的責任を縮小させています。また、一方でアベノミクスによる貧困層の増大、また国民健康保険の保険料の高額化によって、医療が必要な人が医療にかかれない、かかりたくても窓口負担が高額で、医療にかかることを手控える、そういったケースが増えてきています。こういったなか、億所得層を医療に結び付ける役割も担っている「無料低額診療」がますます必要とされています。
 「無料低額診療」とは、低所得者の窓口負担を減額、あるいは免除する制度です。また、医療費の支払いが困難に至った生活上の問題をかかえていることが多く、生活保護や年金の受給、障害者向け医療制度の利用、借金問題などの解決を手助けすることもこの制度の特徴です。
 さて本書では、第1部の「無料低額診療事業がつなぐ医療」で、4つの事例をあげて、無料低額診療がどう関わり愚者を支えたかを示し、強く訴えています。また現場の人たちの思いが、座談会形式で語られています。第2部の「現代の貧困と無料低額診療事業の果たす役割」では、貧困の拡大や医療保険制度が後退しているなか、今まさに無料低額診療の「出番」であることを、第3部では「無料低額診療事業と京都保健会」と題し、今までの変遷、今後の課題が示されています。
 無料低額診療は今の時代、あらためて必要とされ、さらなる拡大が求められます。本書のなかに「少なくとも公約病院は全て無料低額診療を実施すべきで、それ以外の医療機関が実施するためには、国からの財政的援助がされるべき」としています。
 最後に本著の最も主張したいことは、「日本も医療が無料になって、無料低額診療そのものが要らなくなり、安定した仕事に就き、生活のできる給与を受け、尊厳ある人生を送れる国になって欲しい」。この願いだと思います。ぜひご一読を。
渡邉賢治・京都府保険医協会副理事長