老眼 -健康な目を維持するために-

いつでも元気 2023.9 No.382より転載

老眼をはじめ、加齢に伴って起こる目の症状について、さがみ生協病院(神奈川県相模原市)の村上有美医師に寄稿していただきました。

神奈川・さがみ生協病院
眼科 村上 有美医師

 「百聞は一見に如かず」―。
 この言葉を知らない人はいないと思います。「100回聞くより1度見る方がよく分かる」という意味のことわざです。
 五感(視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚)のうち、人間は視覚から実に80%以上の情報を得ていると言われます。高齢化社会において、より高い生活の質を維持するためにも、目の健康は非常に重要です。
 30代後半から視力など目の力の衰えを実感する人が多いようです(資料1)。しかし、実際には目の衰えはもっと早くから始まっています。
 症状が出てから慌てて眼科を受診しても、治療が困難な状況になっていることが少なくありません。

原因

 老眼は病気というより老化現象なので、必ず誰にでも起こります。
 まず、ものが見える仕組みから説明しましょう。眼球に入った光は水晶体を通って屈折し、網膜の上に像を結びます(資料2)
 カメラにたとえると、レンズの役割を果たすのが水晶体です。人間の目は、水晶体の厚みを調節することでピントを合わせます。近くを見るときには水晶体は厚くなり、遠くを見るときには薄くなります。
 加齢とともにこの水晶体の弾力性が失われ、それを支える毛様体の働きも低下します。水晶体の厚みを出しづらくなり、近くにピントを合わせるのが難しくなるのです。水晶体でピントを調節する機能が衰えることが、老眼の原因の一つです。
 また、瞳孔は目の中に入る光を調節しています。カメラにたとえると絞りの働きです。瞳孔の大きさをコントロールする筋肉は虹彩と呼ばれ、周囲の明るさに応じて伸びたり縮んだりします。
 虹彩は加齢によって縮小して、動きが鈍くなります。瞳孔の大きさを調節する力が衰えると、暗い場所でものが見えづらくなったり、色の濃淡を識別しにくくなります。

対処法

 治療について、老化という根本的な原因を取り除くことはできません。老眼は避けられない現象なので、自分の生活スタイルに合った対処法を選ぶことになります。最も一般的な対処法は、老眼鏡(リーディンググラス)やコンタクトレンズで矯正することです。
 「近視の人は老眼になりにくい」と言われることがありますが、これは誤解です。近視の人は元々近くにピントが合って手元が比較的よく見えているため、老眼を自覚しにくいのです。近視の人の場合、従来かけていた眼鏡のレンズ度数を少し下げることで、老眼が解消されることがよくあります。
 「老眼鏡を早くからかけると老眼が進む」と考えている人も多くいますが、そういうことはありません。もしかすると、眼鏡の度数が合っていないなど、眼精疲労や違和感から老眼が進んだように感じることがあるのかもしれません。
 むしろ早くから適切にケアすることが重要で、手元の見えにくさを感じたら40歳頃からでも対策を取りましょう。10分に1回程度、視点を遠くに合わせる目のストレッチや、目薬などで症状が和らぐこともあります。「老眼ごときで」と考えず、遠慮せずに眼科を受診してください。

さまざまな症状や疾患

 加齢に伴ってよく起こる目の症状や疾患を紹介します。
〈飛蚊症〉
 飛蚊症は眼球の硝子体が濁ることで起こります。ある日突然に、あるいはいつの間にか、目の前に蚊やゴミのようなものが飛んで見えたり、雲や墨のようなものが流れて見えます。あらゆる年齢層に起こりますが、高齢者と特に近視の人には起こりやすくなります。
 飛蚊症を自覚して受診しても、老化に伴う生理現象だと言われて問題ないことが多いです。しかし、中には網膜剥離などの重大な疾患が隠れていることも珍しくありません。自分で判断せずに、症状の悪化などを自覚したらすぐに受診してください。

〈白内障〉
 白内障とは、水晶体が硬化・変性して白く濁ってしまう状態です。ものがぼやけてかすんで見えたり、光をまぶしく感じたり、色の濃淡を区別しにくいなどの症状があらわれます。
 白内障は目が白くなると誤解している方がいますが、眼科を受診しなければ通常は分かりません。
 白内障の治療とりわけ手術は、さまざまな面で進歩しています。手術では超音波を使って水晶体の濁った部分を砕いて吸引し、眼内レンズを挿入します。たいていは10~20分程度の短時間で終わり、日帰り手術も多く行われています。

〈ドライアイ〉
 ドライアイは、涙の不足などが原因で目の表面に違和感を生じます。目の乾きと聞いただけでは軽症のように感じるかもしれません。しかし目の違和感のほかに、目のかゆみや目やに、充血や眼精疲労、視力低下、光がまぶしいなどの症状が起こります。中には膠原病などの疾患が潜んでいることもあり、注意が必要です。
 治療は点眼が主ですが、重症度によっては涙の排水口である涙点をふさぐ手術を行うこともあります。

定期的に眼科検診を

 健康な目を維持するために日頃からできることを別項にまとめました。目にダメージを与える喫煙や紫外線を避け、目に良いとされる栄養摂取などバランスのいい食生活を心がけます。
 どの症状や疾患でも、目は左右で2つあるため、どちらか片方が病気にかかっていてもそれを自覚できていない人が本当に大勢います。40歳になったら3~4年ごと、55歳からは2~3年ごと、65歳からは1~2年ごとに眼科検診(眼底検査含む)を必ず受けましょう。

いつでも元気 2023.9 No.382より転載