こころのセルフケア 「自分に厳しく」は逆効果!

 コロナ禍で皆さんのこころに大きな負担がかかっています。自身でできる対処法について、臨床心理士の山藤奈穂子さんに聞きました。

コロナ禍は、こころにどのような影響を与えていると考えられますか?

誰もが、いつもより強い不安と緊張にさらされています。昨年来、その異常な状態が長期間にわたって続いています。
 しかも会いたい人に会えない、楽しみにしていたことができないために、ストレスをうまく解消できません。そのためにうまく頑張れません。
 でも、これは当然なのです。脳は危険やストレスを感じると、命を守ろうとします。脅威に目を向けて、そこから意識をそらさなくするのです。うまくできなくて当然なのです。

こころの負担によって、どのような症状が現れますか?

まず不安やイライラが挙げられます。これは危険から身を守るための脳の自然な反応です。あなたがわざとつくりだしたものではありません。「よし、不安になろう!」と自分で選んだわけでもありません。不安になるのもイライラするのも、あなたのせいではありません。
 進化のなかで、脳は命を守るために感情を発達させました。命の危険を感じたら、脳はあなたを闘わせるか、その場から逃がそうとします。そのために強い不安や怒りが生じるようにできているのです。
 でも、現代社会ではなかなかストレス源から逃げ出すことはできませんし、闘ってやっつけることもできません。コロナ禍のウイルスなどは特にそうですよね。
 ちょっとした体調不良でも「コロナに感染したのではないか」と不安になっていませんか? ソーシャル・ディスタンスやマスクといったマナーを守れない人にイライラするのも、ストレスに対する脳の反応です。

どのような対処法がありますか?

不安や怒りはあなたのストレスのサインです。あなた自身に対する思いやりと優しさが必要だという信号です。
 まず「自分は疲れているんだなあ。ストレスを感じているんだなあ」と気づき、「少しゆっくりしよう」と自分に優しくしてください。
 ぜいたくな入浴剤を使ってゆったりとお風呂に浸かったり、今まで遠慮していたような高価な食べ物をテイクアウトするなど、何でも構いません。
 コロナ禍によって日常が変わったことは、新たなストレス解消法を見つけるチャンスでもあります。今までとは違うことに挑戦しましょう。新しくて楽しいことをすると、脳が活性化され、元気になります。
 ユーチューブなどを使った自宅でのヨガや筋トレ、料理やお菓子づくり、編み物や裁縫もよいですね。ゲーム機を使って囲碁や将棋をやってみるのもお勧めです。お孫さんと通信対戦をする人もいます。対戦ゲームは認知症予防になるという研究もあります。
 オンライン研修を受けて、楽しいと感じられる勉強を始めてみるのもお勧めですし、今まで読もうと思って後回しにしていた本を読むのもよいですね。あるいは、リラックスする音楽をかけて、おいしい飲み物を飲むだけでも構いません。森や海の自然音を集めたCDを流すのも効果的です。
 「楽しみ」は脳の神経細胞をストレスによるダメージから守ってくれます。決してわがままや怠けではありません。心身の健康や認知症予防に欠かせない、大切なものなのです。
 「やるべきこと」だけで生活を埋めるのではなく、「楽しいこと、わくわくすること、嬉しいこと、ゆったりのんびりすること」を生活に取り入れ、脳を守りましょう。

ほかに気をつけることはありますか?

もうひとつ、こころに負担がかかったときに現れやすい症状があります。それは不眠です。
 不安や緊張が続くと、脳は夜になってもなかなかリラックスできません。寝つきが悪くなったり、夜中に目が覚めたりします。朝早く目が覚めて、そこから眠れないこともあります。
 このとき大切なことは、「眠れないことに過剰に反応しないこと」です。「眠れなくなってしまった! どうしよう! このままずっと眠れないのではないか」と不安になると、脳はますます覚醒します。そして、さらに眠れなくなるのです。
 「不眠が続くと認知症のリスクが高まる。かといって睡眠薬を飲むと依存する」など、どこかで読んだ言葉に左右されて、さらに不安になってはいませんか?
 そんなときは「少しくらい眠れなくても大丈夫だ」と考えて、一度布団から出ましょう。カフェインレスの温かいお茶を飲んで、本を読むなどして気持ちを切り替え、眠くなってから改めてもう一度布団に入りましょう。
 もし不眠が1週間以上続いてつらかったら、医師に相談して適切な量の薬を使うのも大切です。精神科や睡眠外来では、あなたに合ったもので、依存や転倒の起こりづらい薬を処方してくれます。

こころのケアに効果的な「セルフ・コンパッション」について教えてください。

頑張れない自分、だらだらしてしまう自分、理想通りになれない自分を責めたり恥じたりしてはいませんか?
 科学的な研究によって自分にコンパッション(優しさ、思いやり、慈悲)を向けるほうが、より頑張れることが明らかにされています。心拍数が減ってリラックスし、心身の健康も向上し、幸福感も高まります。「もっとちゃんとしなきゃ。どうしてできないの」と自分につらく当たるのは、逆効果なのです。
 セルフ・コンパッションとは、大切な家族や親友に向けるような優しさや思いやりを自分に向けることです。やるべきことを頑張れないとき、自分に対して「どうしてこんなに自分はだめなんだ」と自己批判しがちです。でも、大切な人には「大丈夫。いつもよく頑張っているよ。無理しなくていいよ。今日は休んだら」と声をかけられますよね。
 目を閉じてゆっくりと深呼吸を2~3回してから、同じような優しい言葉を自分にもかけてみます。慈悲の言葉も効果的です。「頑張れない自分を許せますように」「自分に優しくできますように」「穏やかな気持ちでいられますように」と唱えます。
 抵抗を感じる言葉があれば、受け入れやすい言葉に入れ替えます。「少しでも楽な気持ちになれますように」「完璧主義を少しでも手放せますように」など。
 心底、そう思えなかったとしても構いません。目を閉じて深呼吸を何度か繰り返し、つらい状況にある自分を認め、「これはつらいよね」「大変だね」と声をかけます。役を演じるかのように、親友にだったらどんな言葉をかけるか想像し、「よく頑張っている。大丈夫」と優しい声の調子で口に出してみましょう。
 実際にそう思えなかったとしても、慈悲深く賢く、真の強さを持つ高僧のような人になりきって、言葉に出してみるだけでも効果があることが科学的に実証されているのです。

参考文献
コンパッション・マインド・ワークブック
著者:C・アイロン、E・バーモント
訳者:石村 郁夫、山藤 奈穂子
出版社:金剛出版
価格:本体3,600円+税

いつでも元気 2021.4 No.353より転載
臨床心理士・公認心理師 山藤奈穂子