所長就任にあたって

研究所所長の小泉昭夫でございます。自己紹介をさせて頂きます。
私は、1952年に兵庫県尼崎市で出生いたしました。1971年西宮市の甲陽学院高校を卒業し、1972年に東北大学医学部に進学し1978年に卒業。1983年から1987年まで米国に留学。その後1987年3月より秋田大学医学部衛生学教室助教授、1993年同教授に昇進しました。
2000年からは、わが国で初めて設立されました公衆衛生大学院である京都大学医学研究科社会健康医学専攻系に転出し、環境衛生学分野を担当いたしました。その後2018年3月に退職し、2018年4月から公益社団法人京都保健会の社会健康医学福祉研究所所長に就任いたしました。

研究におきましては、産業医学や、環境と遺伝子要因のかかわりを研究して参りました。
この間、秋田で発生した製錬所病の原因解明による労働安全衛生法の改正に結び付きました。
1980年代からの集めました血液、尿、食事などを生体試料としてバンク化し、難分解性物質の長期体内動向を明らかにしたことにより2006年には日立環境賞、2010年には遠山椿吉賞特別賞をいただきました。
糖尿病モデルマウスであるアキタマウスの開発と糖尿病の原因の解明、もやもや病の感受性遺伝子RNF213(ミステリン)等の発見により2009年には第11回日本衛生学会賞、2017年には日本医師会医学賞(日本医学会)を頂きました。
東北大震災以降には、福島県の川内村、南相馬、相馬を中心に環境汚染や、被爆の問題、住民の健康問題の研究を続けております。
公的活動としましては、京都府労働衛生指導医、宇治市健康づくり・食育推進協議会委員長、日本衛生学会理事長を務めておりました。
一昨年からは、公益社団法人京都保健会京都民医連中央病院の産業医として医療従事者の労働環境衛生問題にも携わらせていただき、今春からの当会とのご縁にもなりました。

さて、この間の活動で強く感じますのは、競争に基づく市場原理だけで健康医療福祉政策を進める新自由主義の弊害です。
自己責任の名のもとに困難にある方々を見捨てる結果となり、経済格差を生み、「生きにくさ」や将来の不安のため、人々のQOLを大いに損なっています。 
例えば、お付き合いのある、もやもや病の患者会の方々は、就職や医療を含め日々の生活の中で大変ご苦労されてきましたが、今後、国からの支援が先細りする可能性が高いため、ご家族の高齢化とあいまって、障害を持たれたお子さんの将来に強い不安を持たれております。
福島では、原発事故後、除染作業は進んでおりますが、以前の「なりわい」と日々の生活を取り戻すには至っておらず、人々は見捨てられたと感じ、将来が描けない状況です。
宇治では健康づくりと食育を行ってきましたが、欠食や栄養問題など子供の貧困も社会問題として横たわっております。
このように、新自由主義の政策は、QOLの向上には結びついていないと思っております。

この度、幅広く地域の方々の声に耳を傾けながら、地域医療機関の皆様と協働し、すべての人々のQOLの向上をめざす研究機関として社会健康医学福祉研究所を開設いたしました。
本研究所では、京都大学医学研究科社会健康医学と協働し、WHOの唱えるHealth Promoting Hospitals の研究活動を進め、「公正」「公平」な医療の実現のため研究を行う予定です。
地域での医療機関の皆様と連携し、地域にも飛び出し、地域でのヘルスプロモーションを通じQOLを改善し、見捨てない医療福祉の実現に結びつくことを願っております。

社会健康医学福祉研究所
所長 小泉 昭夫

以上は、社会健康医学福祉研究所開設記念式典(2018/6/16)挨拶文より